絵が描けなかった頃の私に、今の私ならどうアドバイスする?
実はわたくし、つい数年前までまったく絵が描けない人でした。
子どもの頃からだから、実に20年以上の描けない歴があると思います。「いつか絵が描けるようになったいいな」という憧れはあったので、絵画教室に通ったり、教本で独学したりとやれることはやってみたんですけどね(^^ゞ
そんな私でも絵を描けるようになって、しかも教える立場になった。今でも時折夢のように感じます。そして、不思議に思うのです。「あんなにいろいろやったのに、どうしてまるで描けなかったのだろう?」と。
描けなかった頃の自分に、今の私ならどんなアドバイスするのか。絵が苦手な人の特徴と対策としてまとめてみました。かつての私と同じように、まったく絵が描けないという方のお役に立てば幸いです。
絵が苦手な人の特徴1:描き出そうとしても手が動かない
「自由に絵を描いて」と言われても、頭が真っ白。
それなら目の前に花を置かれたら描けるかというと、どこからどう描けばいいのかわからず、手が動かない。にっちもさっちもいかない、お絵描きかなづち状態です。

図工や美術の授業で、何度も課題を落とす人はこのタイプだと思います。私もそうでした……。
対策法:描けるかもと自信が芽生えるまで、ひたすらトレースする
絵を描くことに慣れればば、絵に対する恐怖心を払拭できる
お絵描きかなづちなので、水(絵)に飛び込むのがまず怖いんですね。クロールの泳ぎ方などスキル以前のところでつまづいているわけです。
「私には絶対描けない」という確固たる自信をお持ちの方、心当たりがあるのでは。
といっても描けないものを描けと言われても無理ですよね。それなら、トレース(なぞり描き)はいかがでしょうか。
なぞって書くという動作は小学校の国語の授業でもおなじみ。心理的抵抗を感じずに始められると思います。
将来はパソコンで絵を描きたくても。今はあえて手描きする
写真のような芯ホルダーだと、鉛筆より簡単に、しかもギンギンに芯を尖らせることができます。尖っている方が力の加減がしやすく、細部も楽に描けます。

デジタルでも手書きでも、筆記具を使って描くという意味では同じ、そう思われますよね。けれども普段両使いしている私の個人的感覚ではありますが、明らかに違うと思います。
手書きの方が脳を刺激するという研究結果もあるとか。それが関係するのかはわかりませんが、デジタル・アナログ両方で同じように描いてみれば、アナログで描いた時の方がしばらく手の感覚が残りやすいように思います。描くという行為から得られる経験値をアナログの方がより多く得られる、そんな感じがしています。
ある程度のレベルに達すれば、この経験値差は特に問題ありません。でもお絵描きレベル0の状態では得られる経験値の差が、レベルアップの速度に大きく関わるのです。
物は試しで、最初の1週間だけは手書きトレースをがんばってみてください(^.^)
トレースに使う画像は、写真でも漫画でもなんでもOK!
トレースする画像はなんでもかまいません。楽しんで続けられるように、好きな絵や写真がいいかなと思います。
まず、お好みの画像をネット検索して見つけます(※個人的な練習用なので著者権は気にしなくても大丈夫)。次に、この画像をパソコンのモニター(iPadやスマホでもOK)へ大きく映します。
あとはモニターの上から薄い紙をあてがって、なぞり描きするだけ。
1日10分でもかまいません。週2・3日でもOK! 描くということをあなたの習慣として続けてみてください。単純な絵にあきてきたら、車の写真のような複雑なモチーフに挑戦してもかまいません。
そう思えたら、トレース修行は終了。水に入るのも怖いという、お絵描きかなづち状態はめでたく卒業です。メンタル面をクリアしたら、今度はスキルの習得へ進んでみましょう。
絵が苦手な人の特徴その2:線を描くことに強い苦手意識がある
とりあえず、描けと言われたら手は動く(描いた絵が上手い下手は別として)。心理的に描けないほど最低の状態ではないけれど、強い苦手意識がある。もちろん、描いていても楽しくない―ー。
では具体的に、絵を描く作業のどこが苦手だと感じますか?
おそらく苦手だと意識するのは、線を描くこと、ではないでしょうか。
「色塗りは好きだけど、線を描くのは難しいから苦手」という方が生徒さんでも何人かいました。以前大人の塗り絵がブームになったのも、「線が苦手だから絵は描かない。でも塗るのだったら好き」という隠れた需要をうまくとらえたのかもしれません。
絵の世界は「線で描く文化」だけじゃない。「面で描く文化」もある
日本はアニメや漫画が発展してきた、線画文化圏。絵の描き方について解説するサイトでは、「絵を描く」イコール「線を描く」という前提で話を進める人もよく見かけます。
美術館でよく見かける油絵がまさにそうです。絵の具をべったり塗って、重ねるスタイルの絵ですね。トラディショナル(伝統的)タイプの水彩画も面で描くスタイルです。
絵の具が主役といってもいいこの手の絵において、線はあくまで色を塗るための目印に過ぎません。
例として、下の水彩画をご覧ください。線画がなくなっても、さほど違和感がないのがおわかりになるでしょうか。線がなくても、面が境界として機能しています。

対策:一度線で描くことを捨てる。面で描くことを試してみる
このように面で描くのであれば、きちんとした線が描けなくてもまるで問題がないのです。
線で描くのが苦手な人が面で描くやり方を覚えると、突然絵を描けるようになることがあります。私もそのタイプでした。
線と面。この世界には絵を描く方法が2つあります。1つの方法でダメなら、もうひとつの方法を試す価値があるのではないでしょうか。
絵画用ソフトの体験版&Youtubeで面で描くやり方は体験できる
油彩や水彩画は面で描くという話を前にしました。じゃあ面で描こうと思ったら、わざわざ新しい画材にチャレンジしないといけないのか?と思われますよね。
もちろんそれでもかまいません。短期完結の絵画講座へ通ってみるのもいいですし、安くすませたければ図書館から絵画教本を借りてくる手もあります。
絵の具などの画材を買う必要はありません。パソコンに絵画用ソフトの体験版を入れてしまえば、画材は使い放題。
ArtRage(アートレイジ)というお絵かきソフトの体験版は、機能制限なしで無料で使えるのでおすすめです。日本語にも対応しています。

油絵の描き方はYoutubeで学べます。海外ユーザーが投稿しているメイキング動画から字幕つきのものを見つけて、字幕翻訳機能ONで見ればおおよその内容はわかります。
リンゴなど、やさしいモチーフのメイキング動画を見ながら描いてみれば、面で描くという意味は十分つかめると思います。面が主で、線がサブという文化の違いを動画の下書きスケッチの様子からも見て取れます。
ふたつの描き方を知ることで、自分の描きやすい描き方を見つけられる
面で描くやり方で、小さな絵をいくつか描いてみてください。線で絵を描こうとしていた時と比べて、どうですか? まったく違うやり方なのでとっつきにくさは感じつつも、線を描くよりはまだ簡単だと感じるのではないかと思います。
もし面で描くやり方の方が自分に合いそうだと思えば、どんどん他の絵も描いてみてください。
やっぱり線が主の絵を描きたいと思われるのでしたら、面で描いた絵の輪郭をなぞるように線を描き加えてみてください。一から線を描くより、あらかじめ形が決まったものの輪郭をなぞるほうがはるかに簡単ではないでしょうか。
線の文化圏では、線を先に描くのが当たり前だと思われています。でも本当は、色を塗った後に描き加えてもいいんです。複数の描き方を知ることで、ひとつの描き方の常識にとらわれず、自分のやりやすい描き方で絵を描けるようになります。
絵が苦手な人の特徴3:描くスピードがとにかく遅い
今は多少ましになったものの、それでも私は筆が遅い方です(^^ゞ 以前、バラのつぼみを1つ描くのに2時間かかったこともあります。
遅筆の要因はわかっています。やり直しが多いのです。ある程度進んだところでまた消すわけですから、「1歩進んで2歩下がる」でなかなか進まないのも無理はありません。
そもそもどうして途中でやり直すかというと、モチーフのどこから着手してどう攻略していくかという勘がないから。
これは絵の教本や教室、ネットの情報で学んだだけでは限界がある部分だと私は思います。というより個性が絡む部分なので、誰も教えることができない。描き手自身で見つけるしかないのでしょう。
対策:模写しながら違和感を発見し、より自分に合ったやり方へと磨いていく
私が初めてそのことを意識したのは、ある教本にしたがってトレース練習を続けていたときでした。
はじめは著者が紹介している通りのやり方で描いていました。でもいつの頃からでしょうか、合わない服を着ているような窮屈さを感じる瞬間が増えてきました。
そこで「じゃあ、どうしたら動きやすいの?」と自分に問いかけ、この方がやりやすいだろうと思えるやり方で適当に描いてみたんです。そのときはトレースせず、お手本絵を見ながら自分で描き起こしてみました。どこから描くかという順番も、その描き方も自分の直感で決めました。
するとこちらの方がずっと描きやすかったんですね。絵のプロである教本の著者のやり方よりも。
――もしかすると。偉い先生のやり方より、自分の直感の方が当てになるのかも……?
自分の考えた描き方で摸写練習を繰り返す
そこで今度は、自分の考えた描き方で摸写練習を日課にしました。
すると自分自身で考えた描き方にもかぎらず、使ってるうちに出てくるんですよ。また違和感が。スキルも物なので、長く使って初めてわかることがあるんですね。
そこで今度はその違和感を解消するために、より直感的に楽にできる方法を試してみるんです。
この方法がどこからやってくるのか?
絵画教本やネットに出ている、いろんな描き方がヒントになります。これも試してみて違和感があるなら、自分で楽だと思えるやり方へ変えてみる。まったく他の方法を試す、といった試行錯誤を繰り返します。
違和感から解放されるためのやり方は自分自身が知っている
たとえば、足がしびれてきたら楽になろうとして足を崩しますよね。
足を崩すというやり方は、子どものときに大人のやり方を見て覚えるものでしょうか。おそらく違いますよね。体が「この方が楽だ」と自然にやり方を教えてくれたのではないかと思います。
本能? 直感? その感覚をなんと呼ぶのが正しいかわかりませんが、とにかく違和感を感じたときの対処法は自分に聞いてみればわかると思います。
こうして確立された絵の描き方はあなたの感覚に100%マッチしています。オーダーメイドのインソールを入れた靴のように、あなたが作り上げた描き方はあなたのお絵描き能力を大きく引き出してくれます。
もちろん絵を描くスピードも上がります。感覚を阻害する不純物(違和感)が摸写の中でとりのぞかれているからです。
まとめ:お絵描きオンチを脱したターニングポイント
長くなりました(^^ゞ 改めて全体を振り返ると、私が描けるようになったターニングポイントはこの3つだったと思います。
- 「絶対描けない」という気持ちを「描けるかも」に変えられた
- 面で描くやり方を知り、そこに適性を見出せた
- 教本や講師のやり方をそのまま踏襲せず、好きにアレンジすることを覚えた
私のような筋金入りのお絵描きオンチでも、なんとかここまで上達できました。ガンコなお絵描きオンチの症状には、これまでのやり方・考え方をがらりと変えてみると案外効くかもしれません。ぜひお試しあれ。
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